スメタナ 連作交響詩 《我が祖国》 の楽曲解説

 

第2曲 《モルダウ》

スコアの各場面に情景を示すキャプションが添えられていることからも明らかなように、描写的な標題音楽の形を採っているが、そこに、チェコの民族的な悲哀と、将来への希望が託されているのは明らかだ。

冒頭でフルートが奏する⑥aが「第1の源流」。これに加わるクラリネット⑥b「第2の源流」は、⑥aの反行型(上下を逆にした形)。飛び散る水滴を表すピチカートは、流れのうねりを表す木管のクレッシェンドと連動して、不規則なリズムを刻む。この2つの源流が合体した本流として第1ヴァイオリン他が奏する⑦aは「モルダウ」の主題として余りにも名高い(この主題の出典については後述する)。

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情景はホ短調からハ長調に転じて、⑧「森・狩」となる。ホルンを中心とする金管群によるこの⑧は、《ヴィシェフラド》の③を、より壮麗にしたもので、ワーグナーの〈タンホイザー〉、ブルックナーの交響曲第4番〈ロマンティック〉、R.シュトラウスの〈アルプス交響曲〉等と同様、中世の騎士達による狩りの再現した音画だ(ホルンは、狩猟において合図を送る楽器として発達した)。

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これは“プラハを中心とした王国が栄華を究めた時代”の目撃者としてのモルダウ河の証言であり、内容的にも《ヴィシェフラド》を継承した『過去=理想』の表明と解釈できる。
2/4拍子に転じた⑨「村の婚礼」は、色鮮やかな婚礼衣装を纏って踊る村人達。庶民の日常生活を陽気な民族舞曲で描いたこの部分は、王侯貴族の栄華を描いた⑧に呼応している。

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木管の神秘的な転調で4/4 拍子に移行し、幻想的な「月光・妖精の踊り」の情景となる。揺れる川面に映る「月光」は、フルートの⑩とクラリネットが、「水の精の舞」はヴァイオリン以下の弦⑪が叙情豊かに描く。ハープのアルペジョと分散和音も効果的だ。

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トランペットのファンファーレから波の揺れが大きくなり、現実の情景に切り替わる。⑦aによる再現部はトゥッティの強奏で「聖ヨハネの急流」へと突入。この渦巻く激流の描写は、文字通り標題的な音画としても迫力充分だが「王家と庶民のバランスの取れた治世を襲った戦禍」とも解釈できよう。

急流はホ長調に転調。スコアには「ヴルタヴァの幅広い流れ」とあるが、テンポは逆に速まり⑦aが明るい長調で反復され、拡大された「ヴィシェフラドの主題」①dがクライマックスを築いた後、ドイツ領に向けて遠ざかっていく。

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ここもモルダウ河が実際の岸壁ヴィシェフラドを過ぎて、エルベ河となっていく過程は音楽どおりなのだが、スメタナは歴史の目撃者としてのモルダウ河が、まだ現実としては見ることの出来ていない、チェコの復活と独立を目撃したかのように描いている。このコーダで、①dから3小節単位の構造に移行するのは、三という数字に三位一体を象徴させるキリスト教徒らしい宣言。ブルックナー同様、天上界での成就を描いたものと見て良いだろう。

 

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