スメタナ 連作交響詩 《我が祖国》 の楽曲解説

 

第6曲 《ブラニーク》

冒頭から(28)Ia「フス党の主題」が4回反復される。この戦闘的な開始を、そのまま引き継いだ(33)「フス党の戦い」が新たな主題となり、(28)Ia・b等を絡めた激しい戦闘の描写がポリフォニックに展開する。これがフェイドアウトして一旦、終わりを告げると、牧童の吹く笛、シャルマイをイメージしたオーボエの(34)「羊飼い」が、穏やかな休戦の時の到来を告げ、オーボエとホルンが(35)「呼びかけあう羊飼い」で、広野での長閑な掛け合いを繰り返す。

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それが一段落するとオーボエの相方がクラリネットに代わって(36)「牧歌」が平和時のボヘミアを理想郷として描く。ホルンやファゴットによる間の手を加えたこのパストラールは木管楽器群の聴かせ所となる。

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この休息を再び戦禍が襲い、3連符リズムをベースにした(37)「最後の戦い」が、一段と緊張感の高い戦闘の描写を繰り広げると、途中からホルンが「汝ら、神の戦士らよ」の結論部(28)IIIa・b「汝はついに神とともに勝利を得るだろう」を、先導者的に奏し始め、その予言は他の管楽器を従えた長大なコラール(38)「神の讃歌」へと発展していく。途中、何度かの回想や逡巡を繰り返しながら、これが、より確信に満ちた勝利宣言に到達したところで「汝ら、神の戦士らよ」の冒頭(28)Ia・bがfff で再現。更に全6曲を通じての中心主題①a「ヴィシェフラド」の拡大型が、②を伴奏に壮大な凱歌として奏された後、主要主題をファンファーレ化した壮麗なコーダで結ばれる。

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付記

《モルダウ》の主題⑦aの原曲については様々な説がある。個人的にはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の第2楽章⑦bや、カザルスが母国スペインのカタルニア民謡から作ったとされる〈鳥の歌〉が似ていると思っていた。そうした観点から指摘される曲に16世紀イタリアの歌曲『ラ・マントヴァーナ』がある。この曲がヨーロッパ中に広まり、民謡化したというのだ。内藤久子さんもボヘミアの民謡集から複数の候補曲を挙げているが、その中で一番としているのが⑦c。これはチェコでは「窓から猫が」という童謡として現在も歌い継がれている。

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〈我が祖国〉の中で第2曲〈モルダウ〉だけ、スコアに言葉によるコメントが添えられているのだが、奇妙なことに中心主題⑦aが登場する個所には、何も書かれていない。これは、チェコ人なら故郷の歌のように親しまれているメロディで、誰でもが、それと判るからであろう。

但し⑦cは長調なので、仮に⑦cが原曲だとするとコーダでモルダウ川が大河になってプラハ市を流れるあたりで、本来の姿に戻ることになる。ハプスブルグ帝国に支配されたチェコ語禁止の時代に生をうけたスメタナはドイツ語しか話せず、成人してからチェコ語を習得した。そのスメタナが、チェコ民俗の受難史として書いたのが〈我が祖国〉であり《モルダウ》である、という観点からすると、この『短調→長調』=『暗→明』という原型復帰には象徴的なメッセージが託されていると見るべきであろう。

(金子建志)

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