R.シュトラウス アルプス交響曲の楽曲解説

1)夜 変ロ短調の全7音を積み重ねた弦の和音に乗って下降音階①aが、姿を見せない太陽を暗示する。シェーンベルクの〈浄夜〉(99年)を連想させる「短調の下降音階=悲劇」という象徴的な開始。トロンボーンによる山の動機②は〈イタリアより〉〈グントラム〉に用いられ、更に〈火の危機〉では〈サロメ〉のヨカナーン的なクンラート、〈エレクトラ〉では父の仇を討つオレスト、〈ヨゼフの伝説〉ではヨゼフが淫蕩な人妻の誘惑を拒絶する際のモティーフとして使われたもの。いずれも毅然たる態度で意志を貫く超俗の男性像であり、このことからもシュトラウスが山に何を象徴させようとしたか読みとれる。空が白んでいく様は〈ラインの黄金〉の導入部を髪髭とさせる。

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2)日の出 夜で予告された下降音型が太陽①bとして明るいイ長調で明示される。チャイコフスキーの〈悲愴〉のⅠ楽章の副主題①cや、ブルッフのヴァイオリン協奏曲①d(メンデルスゾーンと並ぶロマン派前期の大ヒット曲)を連想させるロマンティックな歌謡主題だ。壮大ではあるが、〈ツァラトゥストラ〉の『夜明け』とは正反対の下降ベクトル。後半の盛り上がりではジークフリートの主題(ホルン主題ではなく悲劇的な方)の引用が聞こえる。

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3)登り道 ここから変ホ長調の主部。力強い登山の動機③aは〈運命〉第4楽章の副主題③a’ や、マーラーの〈7番〉第2楽章のエコーか。厳然と立ちはだかる岩壁④に続いて遠方から金管群による狩りのホルン⑤aがこだまする。

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記述のように、筆者はここを“騎士道の時代へのオマージュ”と考えているので、カラヤンに倣ってバンダを客席から見える位置で吹いてもらう。馬上でホルンを吹き鳴らす騎士達の軍団⑤a(ホルン12とトランペット2)、それに方向転換の合図を送る司令官⑤b(トロンボーン)というイメージだ。日本的には、信長の安土城や、秀吉の聚落台が、一瞬だけ眼前に蘇ったようなもので、我々は、その崩壊の歴史を辿ることになる。

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