ドヴォルザーク 交響曲第8番の楽曲解説

Ⅱ楽章 ハ短調 2/4

自由な形式で書かれたアダージョ楽章。楽章全体の中心となる第1主題⑧aは祈るように始まるが、3回目のフレーズの後半から、3連符が葬送行進曲を暗示する。

dvorak sym8 08

dvorak sym8 09

〈エロイカ〉や、マーラーの〈巨人〉のように「葬送」を意味する言葉が添えられているわけではないが、ドヴォルザークは75~77年に、幼かった長女・次女・長男の3人を相次いで亡くすという悲劇に見舞われ、それが77年に名作〈スターバト・マーテル〉に結実した。また84年のスメタナの病状悪化による悲惨な死は、84~85年に作曲された〈7番〉に反映されている。こうした体験から、少し時間を置いての新たな回想と思えるのだ。

〈8番〉はト長調なのでⅡ楽章を短調にするなら、平行調のホ短調か、同主調のト短調が普通の選択。それを敢えてハ短調にしたのは〈エロイカ〉と、それを継承した《ジ-クフリ-トの葬送行進曲》が念頭にあったからだろう(ドヴォルザークはワーグナーに傾倒していた)。

この3連符型は、〈エロイカ〉を引用したワーグナーと同様、オマージュ的な⑧bとして中間部で「死」を暗示。更に、ハ長調に転じた高揚をファンファーレで牽引するトランペットを、⑧cとして締め括る。穏やかな⑧dや、Ⅰ楽章から鳥の囀りを受け継いだ⑨も⑧aの変容。

中間部の長大の主題⑩は、素朴な全音階の伸びやかさだけでなく、単純な下降音階と、幼児が遊んでいるようなピチカートによるスケルツォ的な伴奏は、明らかに意図的な児童画指向。ヴァイオリン・ソロに、木管による鳥の囀りが絡まるあたりは、教会の天井画として描かれている天使の戯れそのものだ。筆者は、これをマーラーが〈4番〉で描くことになる“天上界の至福”の先取りと見ている。雄渾な高揚はスメタナへのオマージュ、無垢な遊びの世界は、3人の愛児の想い出ではないかと。

dvorak sym8 10

Ⅲ楽章 ト短調 3/8 三部形式

哀愁を帯びたト短調の主部と、明るいト長調に転じた中間部、2/4に拍子が変わったト長調のコーダからなる。

主部の主題⑪aは、Ⅱ楽章の主題⑧aから導き出されたものなので⑧eとしても良いだろう。ブルックナーの〈5番〉と同様、中間2楽章を主題的に関連づけた例だ。木管が間の手として繰り返す⑪bは、⑪aの下降を半音階に圧縮したもの。

dvorak sym8 11

トリオに該る中間部の⑫は、レントラー風に始まるが、後半で盛り上がるに連れてボヘミア的な哀感が強まる。

dvorak sym8 12

コーダ⑬は2/4だが、3小節周期なので実質は3/2拍子。全楽章で常に主役的に扱われるトランペットが、最後に登場してバトンを受け取る。

dvorak sym8 13

タグ: ドヴォルザーク