ボロディン 歌劇〈イーゴリ公〉より《ダッタン人の踊り》

borodin 120px歌劇〈イーゴリ公〉は、未完のまま残されたが、第Ⅲ・Ⅳ幕をリムスキー=コルサコフとグラズノフが補筆・完成、1890年にペテルブルグで初演された。

キエフが分裂していた12世紀、南方の草原地帯から進入した遊牧民族ポロヴェッツ人(ダッタン人)との戦いを描いた物語。囚われたイーゴリ公は、脱走して再び祖国のために戦う。この曲を今、キーウの人々は、どう受け止めるのだろうか?

《ダッタン人の踊り》は第Ⅱ幕のダッタン人の陣営の頂点を声楽抜きで纏めたもの。静かな夜明を思わせる4拍子の導入部は、ハープとピチカートのシンコペーションに先導されたホルンのドローンで始まる。音色は全く違うが、この素朴な保持低音は、バグパイプと同じで遊牧民的な生活を彷彿とさせ、〈中央アジアの草原にて〉のイメージに繋がる。これに乗った①がフルートからオーボエに受け継がれ、導入の前半を終える。

polovtsian dances 01

導入部後半は、歌劇中で女声合唱が歌う②「風の翼に乗って故郷に飛びゆけ」をオーボエ、イングリッシュ・ホルンがリレー。これをヴァイオリンの高音が短調の対旋律で彩ることによって「女奴隷たちの哀歌」のイメージを重ねる。

polovtsian dances 02

ティンパニ等で増幅されたシンコペーション・リズムによって倍テンポのアレグロ主部を導入。クラリネットによる民俗舞曲的な主題③に、トゥッティやトロンボーンで強化された①が「荒々しい男達の踊り」を力強く表現する。

polovtsian dances 03

ここで初めて3拍子に代わり、ティンパニと大太鼓の強打が④「汗を讃える歌を唄え」を導く。この壮大な「全員の踊り」の中間部は、ヴィオラ+チェロによる中音域の主題⑤bに木管による高音域の⑤aが重なる。この装飾的な⑤aは、遊牧民の女性達が戦場に向う男達を励ますヨーデル的な裏声の歌唱をイメージしたものだろう。

polovtsian dances 04

polovtsian dances 05

6/8拍子のプレストに転じた新たなエピソードは、小太鼓と弦がサルタレロ的なリズム⑥aを反復し、チェロのピチカートが単純な下降音型⑥bで楔を打ち込む。このサルタレロ部の主題⑦は、トゥッティの爆発だけでなく、木管やヴァイオリン間でポリフォニックな掛け合いを演じて、中央部に頂点を築く。

polovtsian dances 06

polovtsian dances 07

以上がより重層的に再現された後、加速度的に盛り上がって結ばれる。

タグ: ボロディン

関連記事