R.シューマン (1810~1856) 交響曲第2番 ハ長調 作品61

第1楽章 ハ長調 序奏部6/4 主部3/4 序奏部付きのソナタ形式

序奏部は金管群による緩やかなファンファーレ風のモットー主題で始まる。伴奏みたいに緩やかに重なっている弦は、主部の第2主題⑤の萌芽。シューマンが自身の中に見ていたフロレスタンとオイゼビウスという『二重自我=ドッペルゲンガー』的要素は、ジャン・パウルの小説『生意気ざかり』の双子の兄弟、ヴァルトとヴルトの舞踏会での場面を描いた初期のピアノ曲〈パピヨン〉op.2(1829~31)を始めとして、様々な曲でみられるが、この〈2番〉の場合は、それを曲頭で同時に重ね合わせる形で示しているのである。この二重呈示的な手法はブラームスが〈2番〉で、よりシンプルな形で踏襲している。序奏部は②a上段の騎馬的なリズムを経て加速し、そのままアレグロ主部に直結する。

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主部の第1主題⑥は騎馬的なリズムが新たに主題の形をとったものだ。経過主題的な⑦や⑧を経て第2主題⑤に到達するが、その間に大きな休符を入れることなく、並列的な呈示で流れるように進むのは⑤(提示部では定型どおり属調のト長調に、再現部では主調のハ長調に到達する)がモットー主題の分身に他ならないからであろう。

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長大な展開部は⑦を③aのように畳みかけるといった既出主題の巧みな組み合わせが聴きもの。その頂点がベートーヴェンの〈8番〉の展開部に似ているのは、お聴きのとおりだ。再現部はコーダに新たな山場が待っている。モットー主題①aが序奏部の暗鬱な気分を脱ぎ捨て、勝ち誇った凱歌のように再現されるからだ。

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第2楽章 スケルツォ ハ長調 2/4 A-B-A-C-A-コーダ

軽快なテンポの2拍子系のスケルツォ楽章としてはベートーヴェンの〈8番〉が、より近い例としては42年にライプチヒで初演されたメンデルスゾーンの〈3番・スコットランド〉の先例がある。

無窮動的に第1ヴァイオリンが疾駆するスケルツォ主題⑨はメンデルスゾーンの〈真夏の夜の夢〉やウェーバーの〈オベロン〉序曲を思わせる。

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2つのトリオを挟んだ5部形式にはベートーヴェンの〈4番〉〈6番・田園〉〈7番〉の先例があるが、それらは同一のトリオを2回繰り返す形。シューマンが〈1番〉や、この〈2番〉で試みたのは、1度目のトリオ⑩と、2度目のトリオ⑪が別の音楽になるもので、これは例えばバッハの〈ブランデンブルグ協奏曲〉の〈1番〉のメヌエット楽章等に近い。一時的に本道から逸れた単なる気分転換になってしまいかねない音楽を、コーダで①aを再現することで本道に引き戻すという荒技と、ヴァイオリンによる名技主義的な興奮が見事に折り合う。

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第3楽章 ハ短調 2/4 A1-B1-A2-C-A1'-B1'-A2'-コーダ

シューマンは、間奏曲的な軽い気分転換として緩徐楽章を用いることがあるが、この楽章はむしろベートーヴェンの場合のように、最も真剣な心情告白の場となる。筆者は主題⑫aに、モーツァルトの〈レクィエム〉の《ラクリモーサ》⑫bを見る。中間部の16分音符によるフガート風な歩みは〈魔笛〉の第2幕で、2人武士がタミーノを水の試練に導く場面の音楽(同じくハ短調)を思わせる。いずれにせよ、シューマンがこの楽章で『死の世界=彼岸』を覗き込んでいるのは確かだろう。

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第4楽章 ハ長調 2/2

前・後半の2部構成。導入的な・に始まる前半部はリズミックな第1主題⑬が顔となるが、この⑬のリズムはモットー主題①aから導かれたもの。第2主題的に歌われる⑭は第3楽章の⑫aの拡大形だ。この⑫aによって後半2つの楽章が主題的に結びつけられる。マーラーが後に〈5番〉や〈9番〉で応用した構造だ。この3つの主題によるソナタ形式的な展開にモットー主題が重ねられた後、前半部は一旦静まり、終わったかのように閉じられる。

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後半部は新たな主題⑮を中心に、宗教的な祈りのような世界に踏み込んでゆく。モットー主題①aを含めた既出の主題が組み合わされてゆくだけでなく、プロテスタントのコラールの大合唱を思わせるような讃歌が壮麗な頂点を築き、ティンパニの連打で結ばれる。

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(金子 建志)

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