ショスタコーヴィチ 交響曲第7番〈レニングラード〉の楽曲解説

Ⅲ楽章─3部形式の緩徐楽章

3/4拍子の主部は木管とハープによるニ長調のコラール=アダージョ⑫(4分音符=112)と、それより幾分テンポを落した弦によるロ短調のレチタティーヴォ風の痛切な祈り⑬ラルゴ(4分音符=92)の交替から成る。

dsch 12

dsch 13

広大なロシアの大地への讃歌と、戦時における痛切な嘆き(信仰告白)は、やがてフルート・ソロによる祈り⑭へと昇華。

dsch 14

3拍子を維持したままテンポがモデラート・リゾルートに上がり、嬰ト短調の激しい中間部⑮が始まる。バンダが加わることで、戦場の再現が示されるが、ホルンやトランペットが勇壮に先導するこの中間部、盛り上がるほどスペイン的な華麗さが前面に出てくる。〈8番〉のⅢ楽章や、〈9番〉のⅡ楽章等で、ショスタコーヴィチはトランペットを主役に闘牛士を思わせる華麗な音楽を書いているが、これは大航海時代に最も支配的な大国となったスペインの光の部分。しかしラテン的な派手な栄光と色彩の影には、異端審問による暗黒の支配があったわけで、後の〈14番〉でガルシア・ロルカの詩を使用したことからも、ショスタコーヴィチのスペイン観は窺える。

dsch 15

音楽的なポイントは騎馬兵の突撃を思わせる付点リズム⑯。それがトゥッティに雪崩こむと、主部のコラール⑫に続きレチタティーヴォ⑬がトランペットによって闘牛士風の派手な吹奏で頂点を形成する。派手な衣装と格好良さでマタドールと軍服は共通している。違いは剣で何を殺すかだけだ。第1次大戦までは騎馬兵による戦いが普通に行なわれていたことも念頭において聴くべきなのだろう。

dsch 16

再現部のハイライトは、ヴィオラによって再現される⑭。戦禍の中だからこそ書かれた真摯な祈りは、ベートーヴェンが〈ミサ・ソレムニス〉の《ベネディクトゥス》でヴァイオリン・ソロに託した思いと重なる。

タグ: ショスタコーヴィチ

関連記事