チャイコフスキー 交響曲第6番 《悲愴》 の楽曲解説

tsch-house-photo-thumb第1楽章 ロ短調 4/4拍子 ソナタ形式

この交響曲の中核をなす楽章で、[長大な序奏部+アレグロ主部+序奏部の再現+コーダ]のように見えるが、実際にはソナタ形式の原理、それも[第1主題=暗]と[第2主題=明]を対比させてドラマティックに展開していくベートーヴェンの〈運命〉に倣った構造になっている。

[第1・第2主題を緩やかなテンポで登場させる提示部][第1主題による急テンポの闘争的な展開部][第2主題による緩やかな再現部+コーダ]という形で、冒頭からファゴットによって①aが提示されるが、①aのxは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ〈悲愴〉の冒頭①bに由来するという説がある。これは「完成後に弟の提案が気に入ったチャイコフスキーが〈悲愴〉というタイトルを採用した」という逸話とは時系列的に矛盾するが、交響曲〈4番〉〈5番〉で運命主題の手法を採り入れたことが証明しているように、チャイコフスキーがベートーヴェンの手法を応用したのは明らかなので、ピアノソナタ〈悲愴〉が原型だったとしても、おかしくはない(作曲家は、ルーツを公言しないものだ)。

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主調=ロ短調の①aは、幾分テンポを速めヴィオラによって第1主題①cとして確定する(①c’は、スケッチにおける初形)。この主題提示が一段落した後、次々に登場する新出動機の中で注目すべきは木管群が静かに奏する②。その冒頭、順次下降する音階Yは、密かに予告的な役割を担っている。冒頭に「運命主題Z」を含む③を中心とした激しい絡みが一段落した後、弦によって緩やかに歌われる平行調=ニ長調の第2主題④は、〈中国の役人〉で言及した5音音階(バルトークの譜例⑪)の先例の一つ。

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但し5音音階と行っても、ドヴォルジャークの〈アメリカ〉のように純粋な5音だけによる例は少数。1音だけ加える巧妙な味付けが多く、④は「5音+ファ」の例(〈新世界〉の第2楽章は「5音+シ」)で、「浄土=彼岸」を連想させる安らかな冒頭には②で予告されたYが含まれている。

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