ワーグナー〈トリスタンとイゾルデ〉 第Ⅰ幕・第Ⅲ幕の前奏曲と《愛の死》の楽曲解説

wagner 1861 120pxイングランド本島の北西端コンウォールと、北海を挟んで、その北に位置するアイルランド島を舞台にした伝説から、ワーグナーが自由に創作した。

物語は以下のとおり。

前史─先妻に先立たれたコンウォールの領主マルケ王は、臣下の薦めで、敵対するアイルランドから後妻を迎えることになる。講和を目的とした政略結婚だ。

マルケ王の甥トリスタンは、直前の戦いの際、軍を率いて出征し、敵将モロルトを殺して勝利をおさめたものの、自らも深手を負う。

負傷兵の介護にあたっていたアイルランドの王女イゾルデは、負傷したトリスタンの治療にあたる。モロルトはイゾルデの許嫁だったのだが、その遺体に残された刃こぼれから、相手がトリスタンだったことに気付く。ワーグナーは、治癒の過程で、二人の間に愛が芽生えたとし、それを悲劇の発端と位置づけた。傷が癒えて帰国したトリスタンは、イゾルデを妃として迎える役として、再びアイルランドに赴く。

第Ⅰ幕─イゾルデを迎えて帰国する船内が舞台。トリスタンとイゾルデの間には愛憎が絡みあった激しい葛藤が渦巻くが、イゾルデはトリスタンを殺した後、自らも命を絶とうと決意。侍女ブランゲーネに毒酒を用意させる。それを知ったトリスタンは毒酒の杯を飲み、イゾルデも後を追って飲み干す。

ところが、侍女ブランゲーネが、毒の代わりに媚酒を入れたため、心中にはならず、目覚めた二人の心は新たに燃え上がる。そうした中、船は、婚礼を祝う歓喜の中、コンウォールに到着する。

第Ⅱ幕─王妃となったイゾルデは、トリスタンと密会を重ねる。それを知った家臣メロートは、友であるトリスタンを裏切り、奸計を練る。『王が部下を連れて狩りに出た』という情報を流し、それに釣られた二人の逢瀬の場の最中に、王と共に乗り込んでくるのだ。トリスタンはメロートに決闘を挑むが、致命傷を負い、忠臣クルヴェナールの助けを借りて故郷カレオールに逃げ延びる。

第Ⅲ幕─海岸の古城に身を隠したトリスタンの傷は深く、イゾルデとの再会を望みながらも、死を待つのみ。やがてイゾルデの船が到着。かろうじて死に目には間に合ったものの、トリスタンはイゾルデの腕の中で息を引きとる。

遅れてマルケ王の船も到着、クルヴェナールはメロートを切って仇を打つが、自らも家臣達の刃に倒れる。王は、媚薬がらみの事情を知ったため『赦そうと思って』来たと語るが、もはや手遅れ。イゾルデは亡骸を前に〈愛の死〉を絶唱して事切れる。

第Ⅰ幕の前奏曲

自らの心を隠して、叔父の花嫁としてイゾルデを迎えに行くトリスタンの葛藤を描いた心理劇。「トリスタン和音」として注目されることになる①は、チェロによる①bと、オーボエによる半音上昇①aからなる。

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内に秘めた『憧れ』として始まる①は、低弦のピチカートを境に、押しとどめることの出来ない愛の流れ②へと変わってゆく。ためらいと熱い想いが鬩ぎ合う③が繰り返された後、両ヴァイオリンが二重唱さながらに呼応しあい④、奔流と化してゆくが、その頂点は断罪的に遮られ、諦めの中に沈んでゆく。第Ⅰ幕は、この音楽に物語としての前史を添え、言葉による赤裸々な愛の告白として拡大したものだ。

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