ストラヴィンスキー(1882~1971)バレエ 〈火の鳥〉 全曲版(1910年版)

 

王女達のホロヴォード(ロンド)
乙女達は侵入者に驚くが、王子はリンゴを拾って、ひときわ気高く美しい乙女に捧げる(14)。その乙女は「私はもとは王女ツァレヴナでしたが、魔法使いのために他の娘達と同じようにこの城に囚われて、夜の一時を自分の時間として許され、こうして遊んでいるのです」と、身の上を語る。そして「この森は魔法使いカスチェイ王の領地で、向うに見える城はその棲家です。そこに侵入する者は誰でも魔法によって石像にされ、囚われの身になってしまうのです」と告げ、逃げるように勧める。しかし、ツァレヴナに惹かれた王子は、立ち去らず、乙女たちの円舞に入れてもらう(15)。

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夜明け
明け方になり、突然、トランペットが鳴り響く(16)。魔法使いから許された時間が終わったことを告げる合図だ。乙女達はあわてて、王女に城に帰るよう促しながら、門の中に駆け込んでゆく。ツァレヴナも王子と別れの抱擁をかわし、大急ぎで、閉まりかかった門の中に消える。

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王子、カスチェイの城に突入
それを見た王子は 我を忘れ、脱兎のごとく門に駆け入ろうとするが、門は閉ざされてどうしても開かない。ツァレヴナへの想いにかられた王子は、魔法使いに囚われる危険も省みず、力まかせに扉をこじ開ける。

怪しげな騒ぎ、番人の怪物たちの登場。王子は捕まる。
城の鐘がけたたましく鳴って塔から大勢の悪魔達が手に手に武器をもって現われ、王子を取り巻く(舞台外の金管)。悪魔達は威嚇的に踊りながら(17)王子を捉え、魔王の登場を待つ。乙女たちも階段を降りて来る。

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不死の魔王カスチェイの登場
大勢の従者に伴われて最後に魔王カスチェイが登場。ストラヴィンスキーは(18)のように、舞台外の金管だけをクレッシェンドさせることで、カスチェイの登場を音楽的にもクローズ・アップさせている。長い顎髭と長い手の爪をした悪魔の姿を、ファゴット群を中心とした低音楽器(19)が描く。

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王子とカスチェイの問答
カスチェイは王子にひざまずくよう命じ、魔法をかけようとするが(4 – 金管に強化されている)、火の鳥からもらった黄金の羽根のことを思い出した王子は、魔法使いの顔を羽根で撫でる。カスチェイは眼がくらんでその場によろける。

火の鳥の出現。火の鳥の魔法にかけられたカスチェイの手下達の踊り
危急を察した火の鳥が飛来し、悪魔達を追い散らす。火の鳥の魔法にかけられた手下達は、軽快な感じで踊り始める(20)が、次第に奇怪な雰囲気を帯びてくる。

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カスチェイ一党の、地獄の踊り
トゥッティの一撃で3拍子に転じると、完全に魔界的な踊りに突入。(21)(22)の3拍子の主部に、2拍子の(23)が挟まった恐怖の舞踏はカスチェイも巻き込み、悪魔の一党は憑かれたように踊り続ける。踊りは次第に加速し螺旋状の渦巻きのようになり、目の回るような速さで踊らされた一党は疲れ果てて倒れ、昏睡状態に陥ってしまう。

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子守歌
火の鳥の子守唄(24)によって一同の眠りは一段と深くなる。火の鳥の指図で、王子は眠っているツァレヴナ姫を安全な場所へ連れて行き、傍の樹の幹にもたれさせる。

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カスチェイの目覚め
王子は火の鳥に教えられて、樹の洞窟をみつけ、鉄金で巻いた小箱を取り出す。それを持ち上げると、眠っている一党の身体が痙攣的に動き、蓋を開けると中から大きな卵が出てきて、皆が目をさます。コントラ・ファゴット2本というグロテスクな超低音がカスチェイの目覚めを描写。自分の魂がしまい込まれた卵を見つけられた悪魔は、王子に襲いかかるが、王子は卵を頭上に捧げて逃げ回ったあげく、地面に投げつける。卵は二つに割れ、さしもの不死の魔王も絶命する。

深い闇
魔界も破壊的な大音響と共に崩壊。暗闇の中に全てが消滅した舞台は、やがて次第に明るくなる。

第2場 カスチェイの城と魔法の消滅。石にされていた騎士達の復活と大団円

王子が不思議そうに周囲を見回していると、魔術の解けた若い騎士や旅人の一団が現われ、着飾って王子を迎える。この復活の主題(25a)も、その光景を見渡している王子を象徴するホルンだ。

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乙女達も魔法から解放されて登場。王子は再会を喜んでツァレヴナ姫の手を取って抱き合う。王子はこの土地の王に、ツァレヴナはその妃になる。火の鳥は祝福の踊りを舞い、何処へともなく飛び去って行く。一同は喜びと感謝のうちにそれを見送る。このコーダは(25a)の短縮形(25b)と、その拡大形である。

(2009年12月29日 金子建志)

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